take it easy
「古瀬さん。私が電卓壊してたのに気付いたでしょう?」

 書類が間違っていたのは確かだけれど、ワザワザ電卓を持って来てくれたんですよね?

「…………」

「私、ミスが多いのに、ちゃんと注意してくださってるでしょう?」

「ケアレスミスが多いから、注意してるだけだ」

 古瀬さんは椅子の背にもたれて、腕を組んだ。

「だいたいお前は注意力がない。注意すれば起きないレベルのミスばかり頻発させる」

 ……不注意だと言いたいらしい。

「やる気がないわけじゃないが、集中力が足りない……」

 そして、私を見て眉を上げた。

「どうしてソコで笑う」

「普通の人って、小さなミスは適当に直しちゃうんですよね」

「………まぁ、そうかも知れないな」

 考える様に眉間にシワを寄せて、古瀬さんは首を傾げる。

「古瀬さんて、ちゃんと仕事を教えてくれてるんだなぁ……ちゃんと向き合ってくれてるんだなぁ……って」

 思ったら、

「いつの間にか、好きになってました」

 微笑むと、嫌な顔をされた。


「奇特な奴だな」

「似たような事、言われました」

 先輩にはMって言われたけれど。

「他にいるだろ」

「まったく同じ事を言われました」

 やっぱり先輩に言われた。

 しかも今日。

「しつこいな」

「頑固ですから」

 呟くと、ますます嫌な顔をする先輩。

「でも古瀬さん。私、今日ちょっと気付いた事もあるんです」

「何をだ」

「今日の古瀬さん。途中から一人称が〝僕〟から〝俺〟に変わりましたよね」

「…………」

「…………」


 沈黙が落ちる。


 まずいことは言っていないと思うんだけど。


 と、思っていたら、

「よし」

 しばらくして、古瀬さんは唐突にパソコンの電源を落とすと立ち上がった。
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