極上ドクターの甘い求愛



『遠慮なんてすんなよ。俺と繭ちゃんの仲じゃん?』

「…だから遠慮すると言ってるんです。」

『酷いなぁ~!』


酷いなんて、1ミリも思ってない癖に。

ゴムみたいな頑丈な心を持っている先生は、私がどれだけ失礼なことを言っても笑顔で返してくる。

だから先生の本音が見えなくて、怖い。私は遊ばれてるだけなんだろうな~って思ってるから。


『6時に俺の車を停めてある駐車場に来てね。』

「ちょっ、私は行かないって――」

『来るよ。繭ちゃんは、絶対来る。』

「……っ、」


勝手に夕食の予定を入れられて困惑する私に、先生は絶対的な笑顔を向けてくる。

そんな顔されたら断れないって分かってるから達が悪い。っていうか、なんで私が来るって勝手に確信してるの。


気付けば1階に到着していて、どこかへ去っていこうとする先生を呼び止めた。


『何?』

「――これ、あげます。」

『……っ!』


振り返った先生に渡したのは、私の白衣のポケットに入っていたチョコレート。

小腹がすいた時用にいつもストックしてるやつ。


「疲れた時には甘いものがいいって聞くので。…失礼します。」


こんな時間までご飯が食べられなかったってことは、そうとうオペが立て込んでたってこと。それを悟られないようにしているのかもしれないけど、疲れは早いうちに取っておいたほうが良い。

呆然とする先生にチョコレートを押し付けた私は、薬剤部がある方向へと速足で向かった。


『…っ、だから虜になるって分かってないのかなぁ。』


私があげたチョコレートを食べながら、そんなことを先生が呟いていたなんて、この時の私は全く知らなかった。



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