労苦
 橋村が後から付いてきた。


 すると背後から、


「おい、梶間、橋村、どこに行くんだ?」


 と言う声が聞こえてくる。


 一課長の吉村の声だ。


「新宿区の死体発見現場に行こうって思ってまして」


「ああ。あのヤマはまず一課内でしっかりと作戦を練ってから、取りかかる。いいな?」


「……」


 黙り込まざるを得ない。


 階級が警部である俺よりも、警視正の吉村の方が権力は強い。


 いったん矛を収めておこうと思い、フロア出入り口から自分のデスクへと舞い戻る。


 橋村も隣の自分のデスクに就き、飲み残して置きっぱなしにしていたコーヒーカップに口を付ける。
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