夏に咲く桜──君に伝えたいことがある。

夏の雨

天高く澄み渡る空に、みーんみーんみんみん、と蝉が鳴く。
暑さの所為で、数メートル先の店が歪んで見える。
今日は何時もよりも暑い。
私は夏が嫌いだ。
だって、汗はかくし、髪型は崩れるし、着物は汗で濡れるし……。
早く家…じゃなくて、宿へ行って着替えたい。
何故家に帰らないのか、と言われれば理由は簡単だ。
親と大喧嘩をして、私が家を飛び出したのだ。
こんな家にいてたまるか、なんて言いながら。
ついでに言うと、何の宛もなく家を飛び出したので…宿のお世話になるしかないのだ。
さて、団子も食べたしお茶も飲んだ。
そろそろ宿へ帰るか。
そんなことを思いながら、少し長くて急な坂道を駆け上がって、泊まっている宿へと走る。
坂道を駆け上がると直ぐに宿が見えた。
宿へ行く途中で、とても大きな入道雲が見えたから、そろそろ一雨来そうだ。
そんなことを考えながらも、走ってきた勢いを殺さずにそのまま、部屋へ転がるようにしてあがる。
すると、そこには四人の男がいた。
何となく、見かけたことがある面々。
誰だろうか、私に用があるのだろうか、などと考えていると、声をかけられた。
一番背が高くて、結構ガタいが良い男の人。
髭が生えているが、黒髪は短く切りそろえられていて、どことなく清潔感がある装いをしている。でも、顔が怖い。
お願いです、その怖い顔を私に近づけないで。

「おい、華族である遥樹の血筋を引く娘さんはあんたかい?」

「え…あ、はい。遥樹小春(はるき こはる)は私です」

「嗚呼、良かった。少し用事があるんだ。遥樹の家まで案内頼めるかい?」
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