姉弟ものがたり


『私ね、どうしても叶えたい夢があるの。
佐久間には、ずっと応援していて欲しい』


思いがけないイエスの返事が嬉しくて舞い上がっていたその時は、きっと彼女の言葉がほとんど頭に届いてはいなかった。

それから順調に付き合いは続き…同じ高校を受験して共に楽しい三年間を過ごし、やがて卒業の時が迫ってきた頃……彼女が瞳を輝かせて差し出したのは、”合格”の二文字が踊った一枚の紙だった。


『…どういうこと?』

『ついにねオーディションに受かったのよ。
そんなに大きな事務所ではないんだけど、有名な女優や俳優も何人か所属してるところなの。
どうしてもここに入りたくてオーディションを受けていたんだけど、二回も落ちちゃって…今回、三回目でようやく合格がもらえたわ』


嬉しそうに話す彼女の声がやけに遠くで響いていたのを、よく覚えている。
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