東堂くんは喋らない。
「園田!」
「はーい」
「手塚!」
「うぃっす」
「東堂!」
「………」
「東堂!」
「………」
「東ど…はぁもう分かった。今日も俺の負けだ…」
担任が零れそうになる涙を堪えながら、今日も東堂くんの出席をチェックする。
このクラスになってそろそろ一か月。
担任は未だに、東堂くんと一言も会話を交わすことが出来ないでいる。
そして。
「…松原…頼む!もう頼れるのはお前しかいないんだ!!」
朝のSHR後。なぜか職員室にて担任に泣きつかれている私。
「いや…意味わかんないですから。
何で私が東堂くんに“悩みがあるのか”なんて聞かないといけないんですか?」
そういうのこそ教師の仕事ではないのか。
「大体、東堂くん別に悩んでるようには見えませんけど…」
「いや!あんなに喋らないのは異常だ。何か精神的に病んでいることがあるに違いない」
「…はぁ」
「というワケだ。東堂の相談相手になってやれ、松原」
ポンッと険しい顔で肩を叩かれるけど、いやいやいや。
「そもそも何で私なんですか?」
昨日なんて今まで出会った人間史上、最高に鬱陶しいなんて言われたんだぞ。
「だってお前仲いいだろ」
「えぇ!?」
…私と東堂くんて…仲良かったの!?
「とぼけるなよ」
心の底から驚いてる私に、ニヤリとニヒルな笑みを見せる担任。
「最近、松原と東堂が仲良く犬の散歩デートをしているのを見たと、目撃情報が多数だぞ」
「えっ…」
みっ見られてたの!?
まぁ確かに、そんなに学校から遠くないから、誰に見られても不思議じゃないけど…
「別にデートじゃないですから!」
「またまたぁ~♡」
「本当です!授業始まるんで失礼します!」
もう何を勘違いしてるの、あのバカ担任はー!
怒りに任せてガラッと勢いよくドアを開けると、あろうことかそこには
「…と、東堂くん?」
無表情の東堂くんが、ギロリと私を見下ろした。