雨恋~雨のちキミ~
「あ…あたし、ここの家なんで…」


指で家を差し、ヘヘッと笑った

それに釣られたように先輩も顔を上げる


「雨降って寒くなってきたし、風邪引かんように早く家に入りや」


優しく微笑む先輩の姿に、じわじわと顔が熱くなる


「………はい。雨やし、先輩も自転車気を付けて下さいね」


「うん、ありがと。じゃ」


傘を握っていた手を持ち上げ、何度か振ってくれた先輩の後ろ姿が見えなくなるまで見送り、じんわりと広がる温かい気持ちを胸に家の中へ入った


先輩と話、出来た


一年振りのやり取りに、両手で頬を引っ張り上げてもすぐに緩んでしまう

誰も居ないリビングとキッチンを抜けて洗面所に手を洗いに行き、鏡に映っている自分の顔を見て驚いた

口が少し開き、目が潤んでいる


うわぁ………

あたし、こんな顔して先輩と喋ってたんかな…


見るからに『恋する女』の顔だ


先輩、あたし見て何て思ったやろ………


頬を両手で包み込み、鏡と睨めっこする

さっき話した印象を見る限り、一年前のやり取りは覚えてなさそうだ


変な奴、って…思われたかな


『心配になって声掛けてん』


ホッとした表情を思い出し、胸がキュッと締め付けられる


先輩………好き…


目を閉じ、瞼の裏に焼き付いた先輩の背中にそっと想いをぶつけた
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