幸せそうな顔をみせて【完】
 前の彼と別れた理由はやはり学生の時のように会うことが出来なくなってしまい、気持ちのすれ違いが原因だった。別れた後に色々な意味でもう少し頑張ればよかったかなとも思ったけど遅くて…。そう思った時には私の気持ちも彼の気持ちも離れすぎてしまっていた。


 別れた彼に未練はなかったけど、あの時に頑張ればよかったとは思っていた。


「そうなの?」


「ああ。それで、葵を好きだと気付いたのはもっと後。ただの同期だった葵が俺の中で次第に大きくなって行って、ずっと『いいやつ』だなって思っていて、でも、ある日、葵が進めていた仕事を別の会社に取られてしまった時に、葵が暗くなった資料室で泣いているのを見て、『一人で泣くな』って思った。『泣くなら俺の前で泣け』って。その辺りから、葵のことが俺の中で特別で多分好きになっていたのだと思う」


 確かに悔しくて、でも、誰にも見られたくなくて…私は一人で資料室で泣いた。


 その時の取引は順調そのもので、このまま契約となるところだったのに、ちょっとした隙を突かれ、契約前に他社に持っていかれた。取引を逃した悔しさよりも何よりも自分の甘さが悔しく涙が零れた。契約が終わるまで気を抜かずにいれば、どうにかなったかもしれないのに、スムーズに行きすぎた分、私はどこか甘かったのだと思う。


 でも、それが見られているとは知らなかった。


 そして、そんなところを好きになってくれたとは思わなかった。


「そう。」


「笑うか?」


「ううん。でも、ちょっと驚いた」
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