幸せそうな顔をみせて【完】
 香哉子の言葉に私は口を噤んでしまう。言い逃れが出来ない現実が目の前に晒されていた。思い出すだけで恥ずかしくなるような幸せな時間だった。身体が動かなくなるくらいまで抱かれ、愛を身体の隅々まで行き渡らせた。でも、それは言えない。


「わかんないけど、そうかも」


「で、その指輪はもしかしたら婚約でもした?あ、でも右手だから違うか。でも、副島センセイのことだから結婚を前提にとか言ってそう。中途半端なことはしなさそうだもん」


 未知はサラダを食べるのを止めると、サンドイッチを口に運びながらそんなことを言う。今日はまだ具合がいいらしい。それにしても、未知にしろ、香哉子にしろ、見てきたかのようにいうから不思議でならなかった。確かに同期でずっと一緒に居たけど、副島新は金曜日までそれらしい雰囲気は出さなかったし、私も出してないはず。


 でも、私が副島新のことを好きなのを知っていたという。副島新も同じようなことを言っていたから、私の感情は表情にダダ漏れだったのだろうか?それにしても、今日のサンドイッチはいつもと同じ味なはずなのに、味を感じない。


「あ、私もそう思う。副島センセイって中途半端嫌いだもん」


 二人の言うとおり、副島新は付き合いだした私に対してとても誠実だった。結婚を前提にというのも。この右手に光る指輪にしろ。自分の気持ちが本気だと真っ直ぐに伝えてくる。



 そんな副島新を前よりも好きになったのは私。
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