幸せそうな顔をみせて【完】
 ドアを開けるとそこには落ち着いた色の着物を着た女性が立っていて、入ってきた私と副島新を見て優雅に頭を下げる。駅とは反対側の方だとはいえ、この店の中はとっても静かだった。ドアを開けて入った場所は思ったよりも広い。目の前には奥の方に続く通路があり、その両側には障子がいくつも並んでいる。


 床には黒い割石が綺麗に並べられていて、壁から広がる淡い光が…壁に塗られている漆喰に反射し、黒い割石を光らせていた。店内はそんなに明るくはないのに、奥の方まで見通すことが出来る。私が思うよりも広い店だった。


「いらっしゃいませ。お二人様でよろしいですか?」


「はい」


「ではこちらにどうぞ」


 案内されたのは通路の真ん中くらいの部屋で障子を開けるとそこには個室があり、続間とかではなくて、完全個室だった。靴を脱いで部屋に入るとそこには大きな木製のテーブルがあり、その上には朱色の布が敷いてあり、乳白色の和食器が置いてあった。部屋には間接照明がいくつかあるだけだから、隠れ家のような雰囲気が溢れていた。


「とりあえずビールを二つ」


 そう副島新がいうと、着物を着た女性はお辞儀をして、障子を閉めたのだった。区切られた空間に二人っきりになると急にまた胸がドキドキし始めた。既に泊まっているし、それなりに濃厚な時間も過ごしたのに私は初めてのデートでもするかのように緊張してしまっていた。


 この店は…副島新のイメージと違いすぎる。
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