幸せそうな顔をみせて【完】
 何日か前までは机を並べるだけの同期だった。


 就職の氷河期に入社した私たちは同期は六人でとっても仲が良く、課は振り分けられたけど、それでもことあるごとに一緒の時間を共有した。その中でも副島新の能力は抜きん出ていたと思う。聡明と言う言葉は彼のためにあるのではないかと思うくらいに知識が深く、その事柄に対しての遂行力にも長けていた。


 格段に仕事が出来る副島新のことをいつしか羨望の眼差しを向けることが増え、仕事に真摯な姿に感心もしていた。でも、いつからか、それはただの同期の男の子から、でも、心の奥底では密かに恋心も育っていた。でも、そんな気持ちは言えなくて…。同僚のままに終わるのだと思っていた。


 それが金曜日の飲み会で、副島新も私のことを好きだと思ってくれていたのを知り、自分の恋心も静かに解き放たれた。そして、今、私の手にはまた一歩、二人の関係を進めるものがある。


「私でいいの?」


「葵じゃなきゃダメだ」


「私も……新がいい」


 駅に向かって歩き出す私の手は副島新の手に包まれていて、その温もりにずっとついていきたいと私は思っていた。



 
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