幸せそうな顔をみせて【完】
 会社に着くといつもより遅い時間で私はロッカー室にも行かずそのまま営業室に向かう。何時もはロッカー室で小さなバッグに必要なものだけ入れ替えるけど、今日は時間もないので、持ってきたバッグをそのままに自分の席に着くと机の上のパソコンに電源を入れた。


「おはよう。遅かったな」


「うん。ちょっと寝坊した」


「ふぅーん。珍しいな」


 横の席にはいつも通り副島新が座っている。その横顔は私のことを見ることはなくパソコンの画面に吸い寄せられるかのように視線を離さない。真っ直ぐな横顔がまた私の胸をドキッとさせる。すると、私の方を見てないはずなのに、副島新の左手は私の机の上に一冊のファイルを置く。


 今日は一段と仕事モードらしい。


「小林主任からもう戻ってきた。内容を確認したら、総務に回して」


「了解」


 私は貰ったファイルを確認を始めた。小林主任の仕事は的確で指示も分かりやすい。殆どは私が作ったままでよかったけど、一部分は訂正が入っていた。丁寧に付箋が貼られ、そこには金額の訂正が書き込まれている。私が弾き出した数字よりも少しだけ利益が上乗せされていた。


「この訂正部分見た?」


「ああ。小林主任の提案書は強気だと思うけど、行けそうな気もする」


 こういうところが成績を上げていく人の仕事ぶりなのだろう。私の作った見積もりでも利益は出ている。この数字が出てくることが経験の差なのだろうか?私は小林主任の付箋の通りに見積もりを作り直すことにした。それは小林主任に言われたからそうしたのではなく、小林主任の作った見積もりの方がいいと思ったから。
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