幸せそうな顔をみせて【完】

11 好きというだけで

　タクシー乗り場に向かって歩いていると不意に私の耳に聞きなれた声が耳に届く。副島新の声によく似ていた。あんなに会いたかったから空耳かもしれないと思ったけど、確かめてみたくて振り返るとそこには副島新が居た。一日中、すれ違うばかりで結局会社では殆ど話せなかった。


　それに尚之に会って、尚更、副島新への気持ちが強くなっていた。


　でも、その姿を見て、一気に膨らんだ気持ちが弾けるように萎んでしまった。副島新は一人ではなかった。副島新の横に居るのは見たこともない女の人で副島新の腕に絡みつくように身体を纏わせている。


　クスクス笑いながら綺麗な表情を向けているのはどう見ても大人の雰囲気を纏わせる女性で、『新くん』と鈴を転がしたような声を響かせている。フワフワとスカートを揺らしながら副島新の腕に離されないように抱きついていた。そんな光景を見ながら誰なのだろうと思った。


　どう見ても親密そうにしか見えない。少し年上ではあるけど、お似合いのカップルにしか見えない。副島新は大きな溜め息を零している。でも、目の前にいる女性はそんなのには全く気にしてないようだった。副島新が腕を引き抜こうとしていても、それを阻もうと両手でギュッと抱きついていて、副島新の腕は…彼女のふくよかな胸に埋もれていた。


「離せ」



「だから、一緒に飲みに行くなら離してあげる」


「俺は帰る」


「新くんに拒否権なし～」