幸せそうな顔をみせて【完】
 もう一度インターフォンが鳴った。すると消えた画面にまたフッと副島新の綺麗な顔が映る。大好きな顔だった。綺麗と言うだけでなく知性を兼ね備えた副島新の顔は客観的に見て、端正だし、綺麗すぎるとも思う。そんな綺麗な顔した副島新は顔を歪めている。


 苦しいのは私なのに、なんでそんなに苦しそうな顔をするの?あの、志摩子さんと言う人が好きなんじゃないの?聞けない問いが増えていく。


 私と志摩子さんの二股状態で、どう見てもあの親密さからするに私の方がもしかしたら浮気相手なのかもしれない。そう思うと苦しい。


 息を飲み、早く帰って欲しいと心の中で願う。どんなに考えても今日はどうしても会う勇気がない。もしかしたら、今度会う時は別れを言われる覚悟をしないといけないかもしれないと思った。


「ごめん。本当に無理なの」


 画面に映る副島新の顔が消えてから私は謝罪の言葉を心の中で呟いたのだった。


 それからインターフォンが鳴ることはなかった。私はというと、自分が会わなかったのに寂しいと思ってしまった。会いたかった。会って、キュッと抱き寄せて貰いたかった。昨日、私が見たのは見間違いだと言って欲しかった。


 でも、現実は聞けないし、聞いたところで副島新は何も言わないだろう。


 私は自分のベッドに潜り込むと目をキュッと閉じた。今はゆっくりと自分のことを見つめなおす時間が欲しいと思いながらも苦しさが増していた。




< 200 / 323 >

この作品をシェア

pagetop