幸せそうな顔をみせて【完】
 こんなにも食欲がないのは初めてだったけど、それでも私は無理に食べるようなことはしなかった。今はただ、眠りたいとしか思わない。でも、ベッドに入ったからと言って、すぐに寝れるわけではなかった。さすがに二日目になると泣くことはなかったけど、それでも、ずっと副島新のことを考えていた。


 お酒の勢いを借りてのプロポーズだったけど、私はとっても嬉しかった。一緒に幸せになりたいと思ったし、それ以上に自分の中の恋心が実ったことも嬉しかった。でも、今はたった一週間しか経ってないのに奈落の底にいるように感じられる。


 あの時の言葉は嘘じゃないと思いたい。そう思いながら目を閉じると、エントランスのオートロックのインターフォンが鳴る。まだ、会社の人のエントランスの鍵が出来てないのかと思って、ゆっくりと起き上がり、画面を覗くと、そこには副島新の不機嫌そうな顔が映っている。


 時間は10時を過ぎたくらいの時間で、いつもなら寝るには早い時間。でも、今日はもう寝るだけの状態だった。


 不機嫌な顔でも見れたら嬉しいというのは私が好きだから。でも、会いたくないと思うのは私の細やかなプライドでもある。画面の奥では徐々にイライラしたような不機嫌さが増しているように見える。私はインターフォンの画面が消えるまでずっと副島新の顔を見つめていた。


 私に会いに来るのは…私が彼女との関係を知らないから。でも、私は二人で夜の街に消えるほど親密な関係だというのも直に見ている。そんな揺れる心のまま副島新に会う気にはならなかった。
< 199 / 323 >

この作品をシェア

pagetop