幸せそうな顔をみせて【完】
 今日の大事な仕事がなかったら私は身体を起こして立ち上がることが出来なかった。身体を起こせたのは私の中で仕事というのがとても重要な位置にあるということ。あの緑川さんとのアポがあって、今日のプレゼンが上手く出来れば、きっと契約に結び付く。


 それに今回の提案書は小林主任の目を通っていて、値段的には強気だけど当社の商品がどのくらい価値のあるものかを十分に伝えることの出来ると思う。強い意思を持った提案書を携えていくのだから、こんな体調でなかったらきっと私は最高の臨戦態勢で臨めたと思う。


 でも、今は最悪な状態だった。


 仕事にプライベートを持ち込むつもりはないし、もし、何があってもきちんと自分の中で切り離せる自信もあった。でも、副島新は私の同僚で真横の席に座っている。話さないというわけにはいかない。そこは大人な対応を取らないといけないけど、まだ自信はない。


 気持ちが落ち着くまでは会いたくないというのが本当の気持ち。でも、仕事に行かないといけないという相反する思いが交差し動揺させ溜め息が零させた。でも、溜め息を零してばかりでは何も始まらないし、先にも行けない。


「頑張れ、私」


 私はキッチンでコーヒーメーカーをセットしてから、洗面所に向かった。明かりの下で見る自分の顔にギョッとする。さっき、リビングで見た時よりも酷い形相に目を見開いてしまう。そして、自分の顔に手を当てると呟いた。


「本当に酷い顔」

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