幸せそうな顔をみせて【完】
 車は会社に向かって走っていく。小林主任は何か考えているようで、それは何かは分からない。行きがけのご機嫌な雰囲気は全くなく、どちらかというと怖いくらいだった。契約が思ったように行かなかったからなのだろうか?

 
 私がもう少し上手に説明したら、あんな力技を使わないでよかったのかもしれない。今の私の出来る全てを出したつもりだった。でも、まだまだ足りないのだろうか?


「あの、今日はありがとうございました」


「ああ、それはいいけど、さてこれから忙しくなる。瀬能商事はこれから伸びるだろうな。今の社長も切れ者だけど、あの御曹司もなかなか。一応、部長に試用期間用の契約書の稟議を通して置いてよかった」


 私は説明することだけど精一杯だった。でも、小林主任はその上を行く。まさか、試用期間用の契約書の稟議まで通していると思わなかった。仕事に対する気持ちというのが凄い。


 本社営業一課から来たから、仕事に対するノウハウはあると思っていた。それに本社営業一課がどれだけ凄いか分かっていたけど、私の考えは甘かった。


「小林主任は凄いです」


「いや、今回の立役者は瀬戸さんだよ。瀬戸さんの説明に瀬能さんは納得したんだと思う。普通の人ならあれで契約だね。でも、今回、そういかなかったのは彼が優秀な経営者であるということだよ」


「そうですか?」


「ああ。この契約は瀬戸さんが思うよりももっと大きなものになる。試用期間を待つ前に新しい契約が決まる。それも全国規模になる」


 

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