幸せそうな顔をみせて【完】
「小林さんには敵わないな。でも、今日は試用期間の方にさせて貰います」


 尚之は笑いながら、一か月の試用期間の契約書に判を押したのだった。それを見て私が尚之の方を見ると、ニッコリと笑う。そこにいるのは瀬能商事の専務ではなく、私の知っている尚之でホッとする。でも、頭に浮かぶのはもしかして私の知り合いだからとりあえずの試用期間なのかもしれないということ。


「別に瀬戸がいるから判を押したわけではないからな。我が社の利益になるから契約した」


「もちろんです。ありがとうございました」


「ああ。いい商品だし、説明も分かりやすかった。小林さんもありがとうござました」


「こちらこそありがとうございます。商品の方は週明けの月曜にでもお届けします」


「それは早いですね」


「もちろんです。いい商品ですので早く使って貰いたいですから。それではあまり時間を頂くのも申し訳ないのでこれで失礼します。月曜には瀬戸が商品の搬入に伺いますのでよろしくお願いします」


「はい」


 瀬能商事を出ると、私は一気に緊張が解け、その場に座り込みそうになる。でも、目の前には小林主任がいる。ここでフラフラしているわけにはいかない。でも、緊張が解けた後の脱力感が半端ない。気疲れしたというところだろうか?こんなに緊張する仕事も他にはない気がした。


「大丈夫か?」


「はい」


 小林主任はスムーズに車を動かすと瀬能商事を後にしたのだった。
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