幸せそうな顔をみせて【完】
 もしも小林主任の言うとおりになるなら私は少しは自分に自信を持ってもいいのだろうか?少しは副島新に近付けただろうか?もし、近付けたなら見てみたいと思う。副島新の見る世界を片隅からでいいから見てみたい。これは恋なのだろうか?憧れなのだろうか?


 そんな分からない感情に包まれていた。


「さてと、俺はもう一件アポがあるので行って来るけど、瀬戸さんはどうする?会社でよかったら玄関先で降ろすし、どこか行きたい場所があるならそこに連れて行く」


 この後にアポを入れているという小林主任に驚いた。一つの契約だけでなく幾重にも糸を張り巡らしているのかもしれない。それは新しい契約に繋がっていくのだろう。


「会社でお願いします。昼から瀬能商事に納品するために準備をします」


「そうだね。普通なら一週間くらいの時間を貰うけど、今回はどうしても欲しい契約だったから週明けの月曜日に納品だった。悪いけど、後を頼んでいい?それと、試用期間が終わったらかなり大きな契約になるので、研究所から商品知識に詳しい研究員を連れて契約に行くからそのつもりでいて欲しい」


 どこまでの段取りをつけているのだろう。


 確かに研究所に依頼をするとは言っていたけど、それがこの契約に絡むとは思わなかった。激流は止まることなく流れていく。そんな流れの中、私も自分の足で立ちたいと思った。


 小林主任が少しだけ開いてくれた扉を大きく開くのは自分しかない。自分で頑張らないと意味がない。
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