幸せそうな顔をみせて【完】
 小林さんの運転する車に乗り込むと、中垣さんは後部座席に座り、すぐに『俺は寝るからついたら起こせ』というとそのまま寝てしまった。動き出して10分もしないうちに気持ちよさそうな寝息さえ聞こえている。もしかしたら物凄く疲れている人なんではないだろうか?


 それなのに今回は同行して貰う。


「あの、中垣さんは今日大丈夫だったのでしょうか?凄く疲れているみたいで」


「そうだね。中垣さんは優秀な研究員であるが故に自分が納得するまで研究を重ねるんだ。それが結果的に成果となって商品となるけど、それまでの苦労は俺たちが知らないだろ。出来上がった商品にどれだけの手を掛けているのを知れば自分の社の商品を大事にしたくなる。今日は瀬戸さんにとって実りある一日になるといいね」


 小林主任の言うとおりだった。


 私はカタログの中の商品しか知らないし、それがどのように生み出されるのかも知らない。でも、後部座席で眠る中垣さんのように真摯な研究員があってこその商品である。私や小林主任はその良さと性能を顧客に勧める仕事をしている営業。どちらが欠けても成り立たない。


「今日は頑張ります」


 そんな私の言葉に小林主任は綺麗な顔で微笑んだのだった。


 昼過ぎの幹線道路は混みがちなのに今日は何故か車が少なく。小林主任の運転する車は私が想像していたよりも早く瀬能商事についてしまう。駐車場に入ると妙に緊張し始めていた。


 緊張しすぎて喉がカラカラ。納品なのに緊張感が半端ない。
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