幸せそうな顔をみせて【完】
「今から緊張してどうする。瀬能専務は自分の知り合いだろ。それに今日は中垣さんも居るし、何も心配ない」



 そうは言うけど、こと仕事に関して尚之が『私が居る会社』というだけで商談を持ちかけたりはしない。小林主任が打ち出した試用期間の提示が無かったら今日という日はなかった。私は何も出来てない。瀬能商事がどの程度の企業なのかも知らずに尚之の電話で営業に行ったけど、結局は全て小林主任が話しを進めたようなものだった。


 小林主任は商品に絶大な自信があるから、試用期間を設けてまで瀬能商事との取引を始めようとしている。これが成績の差になり、営業員の格の違いともなる。仕事に向かう真摯な姿と絶対的な自信に基づく姿を尊敬している。同じようになれないのは分かっているけど、それでも目標としている。


「中垣さんそろそろです」


 そんな声に中垣さんは起きていたのではないかと思うくらいにアッサリと目を覚ましたのだった。疲れているように見えたから中々起きないのではないかと思ったけど、中垣さんにそんな心配は必要なかった。


「ああ。で、ここまで来て俺は何をすればいいの?」


「もちろん商品の説明ですよ。今日は納品だけど、瀬能専務が同席しての納品となります。そこで簡単に商品の説明をお願いします。数値的データから多角的にして貰えると助かります。


「了解」


 中垣さんはそれだけ言うとグーッと背中を伸ばして首をコキコキ鳴らした。それが合図だったのか、閉じられていた目蓋が開いた瞬間、瞳の奥の強い光が前を見据えていた。
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