幸せそうな顔をみせて【完】
「ここに入る」


 そう行って副島新がスタスタと入ったのはホテルから歩いて10分くらいの距離のあるファッションビルだった。それもどちらかというと、レディースの物が多く揃う場所だったので、正直驚いた。


 女の子が好きそうな雑貨や小物、洋服にバッグと何でも揃うファッションビルには何度か来たことはあるけど、この場所は人が多すぎて疲れるから、何かある時でないと来ない場所だった。大学の時は結構頻繁に行ったけど、仕事を始めてからは殆ど行ってない。


 特に今日は土曜日で人混みも半端なく、内に入っただけで、回れ右をして帰りたくなる。私でもそう思うのに、副島新がこんなをメインイベントにするとは思いもしなかった。でも、ファッションビルでのメインイベントってなんなのだろう。


 ただのファッションビルでのショッピングをメインイベントと言うのだろうか?


 入口にある自動ドアを潜り抜けた瞬間、副島新の眉間の皺が一瞬寄ったような気がした。そこは私の予想以上の買い物を楽しむ人が溢れていて、本当にここに入るのかと思ってしまった。


「本当にここに入るの?人が多いよ」


「ああ。それでも用事がある。さあ、入るぞ。逸れるなよ」



 副島新はそういうと私の手をキュッと掴んだ。吃驚して見上げると、平然とした顔でニッコリと笑う。そんな綺麗な微笑みに胸をキュッと鳴らせながら、私は平静を装う。真っ赤になってしまいそうなのに、心の中で何度も深呼吸した。

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