幸せそうな顔をみせて【完】
「練習してって」


 私がそんな不満げな言葉を口にすると、副島新はニッコリと笑う。あ、こういう顔の時は譲る気配がないのが私には分かる。そして、この後に続く言葉もある程度想像出来るような気がした。いつもの副島新なら自分の中の意見をハッキリと言葉にするから『女が料理を出来ずにどうする』とか言いそうだった。


 でも、器用さかからすると絶対に副島新の絶対に料理は上手と思う。


「葵が俺のために作ってくれるなら何でも美味しく食べられると思う。焦げた卵焼きでも炭と化した魚でもいいけど、葵は母親になるんだから、子どもには美味しいものを食べさせたいだろう」


 とりあえず卵焼きは作れる。それに、魚も焼ける。今まで、卵を焦がしたことも魚を焼いて炭にしたことはない。でも、それよりも何よりも…子どもって何?


「子ども?」


「ああ、俺と葵の子どもに決まっているだろ。結婚を前提の付き合いだから、いつかは結婚して出産をするだろ。それとも葵は子どもは嫌いか?」


「嫌いじゃないけど」


「なら、よかった」


 まさかそんな先のことまで副島新が考えているとは思わなかった。結婚を前提としての付き合いとは言っていたけど、それは真剣という思いを私に伝えるだけだと思っていた。でも、私が思う以上に副島新の中では何か私が分からないものが進展しているのかもしれない。


 頭の切れすぎる人の考えなんか凡人の私には分からなかった。




 
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