幸せそうな顔をみせて【完】
「それで、葵はどう思う?」


「うーんと。それはねぇ」


 しばらく歩いていて、少しだけいつものような話が出来るようになっていた。

 
 その合間に知るのは、私の知らなかった『副島新の一面』だった。


 会社にいる時よりもよく話すし、時折、穏やかな微笑みを浮かべたりする。相変わらず、厳しい毒舌も吐くのに、それでも、その後にちょっとだけの愛が纏いだしていて、私の中でゆっくりと副島新のイメージが変わっていく。こんなにも穏やかに笑う人だっただろうか?



 そう思うくらいに良く笑う。


 綺麗な顔が魅力を破壊的に増し、また少し収まったドキドキが加速していく。


 元々、会社でのしっかりした態度や、自信溢れる姿に好意は持っていたし、一緒にいる時間が増える度にその『好意』は『恋』に変わっていった。頼りがいのあるところと誠実なところに私は惹かれていた。それなのに、こんな風に大事にされ、人には見せない姿を見せてくると、どうしようもなくなってしまう。


 繋がれた手が少し熱を持ち、汗ばんできて、恥ずかしいからハンカチで拭きたいけど、キュッと握られたまま放される気配はない。横を歩きながら、さっきからドキドキが止まらないし、平静を保ちたいと思うのに、中々気持ちのコントロール出来ない。


 コントロールも限界に近付いている気がする。


 口を開けば、私の思いが零れだしそう。口に手を当てたいくらいの気分だった。


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