幸せそうな顔をみせて【完】
「具合悪いか?少し休もうか」


 そんな優しさを含んだ言葉にそっと視線を上げると副島新が心配そうな顔をして私を見つめていた。視線が絡むと、一生懸命頑張っていたコントロールは一気に崩れ去り、好きって気持ちが暴走し始める。


『そんなに見つめると溶けちゃいそう』


 胸がキュキュキュと締まるように苦しさを増す。苦しさがドンドン増していくし、手と足が一緒に動きそうなほどの緊張。それを押し殺すように私はニッコリと笑った。笑ったつもりだったけど、顔が上手に表情を作れなかった気がする。


「大丈夫」


 そうは言ってみるものの、一向に感情の平静は保てず、顔だけでなく、耳まで熱くなる始末。絶対に顔も耳も真っ赤になっているだろう。今、水を浴びたら一気に蒸発するのではないかと思うくらいにドキドキする。


 ドキドキしている私の手を引いて歩いていた副島新は急に立ち止まると、壁際の方に私を引っ張っていき、何を思ったのか、スッと私の額に手を当てると一気に眉間に皺を寄せた。



「葵。お前、熱がある」


 え?まさか、そんなはずはない。副島新の事を考えていると不正脈かのように心臓は飛び跳ねるけど、自分に熱があるとは思いもしなかった。それに喉も痛くないし、身体の怠さもない。



「副島センセイの手が冷たいだけじゃない?」



 私の言葉に副島新はまたまた眉間に皺を寄せた。ハッと気付いてももう遅い。『副島センセイ』は禁句。

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