幸せそうな顔をみせて【完】
「葵。動けるか?」


 そんな言葉で私は目を覚ました。ホテルの駐車場から車を動かしたところまでは覚えている。副島新の綺麗な横顔を見ていたところまでも覚えている。でも、その後は…車の心地よい揺れに私はいつの間にか寝てしまっていたようだった。


 まさか寝てしまった?


 でも、記憶がそこで止まっているから間違いなく寝てしまったのだろう。


 いつの間にか助手席のシートに寝ていた私の身体にはさっきまで副島新が着ていたシャツがふわっと掛けられていて、本当に熱が出ているのか、さっきファッションビルの時よりも少しだけ身体が熱い気がする。でも、どこが痛いとかはなくて全体的にフワフワする感じ。


「大丈夫」



 ゆっくりと身体を起こすと掛けられていたシャツが身体からずり落ち、それを拾おうとすると、右手に嵌っているピンクサファイヤの指輪が目に入ってきた。途端に今日の朝からの出来事がふわっと頭の中に浮かんでまたドキドキしてしまう。


 夢のような時間だったと思う。


 でも、こうして自分の右手の薬指の嵌っている指輪にそっと触れると夢じゃなく現実だと教えてくれるのだった。そして、ゆっくりと胸の奥がまた熱くなりドキドキもしてくる。


 そんな気持ちを振り払うかのように視線を外に向けるとそこは見たことがない駐車場で、端の方に眩い光と放つ扉があり、どこかの地下駐車場ということは分かる。


「ここどこ?」


「俺のマンションの駐車場。自分で歩けるか?歩けないなら抱いていくけど」




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