幸せそうな顔をみせて【完】
 副島新の真っ直ぐな瞳の輝きに捕えられてしまい、何も考えられなる。真っ直ぐな瞳は私のことを心配している表情が映っている。こんな顔を見たことはなくて…。こんなに心配をさせたのだと思って胸がキュッと痛みを覚えた。


「本当に大丈夫か?」


「うん。そんなに心配しないでいいから」


 だから、少しでも頼らずに歩きたくてゆっくりとした歩調だったけど自分の足で歩き、副島新の部屋の前までやってきた。途中で少しふらついたものの。それはたった一回だったから許容範囲だろう。ふらついた時も一瞬だけ足元が疎かになっただけでその後は真っ直ぐに歩けたと思う。


 熱はあるかもしれないけど、それでも今までの経験から副島新が心配しているほどでもないと思う。でも、どんなに私が言ったところで副島新は納得しないと思う。そういうところは融通が利かない人だった。


 今日もまた『1215』のドアの前にいる。目の前にあるドアに嵌っているプレートを見ながらまさか、二日連続この部屋のドアを見ることになるとは思わなかった。


「入るぞ」


 私が答える前に副島新が鍵を開け中に私は入れられると、副島新は後ろ手で鍵をカチャリと掛けた。


 中に入るとすぐに私の身体は抱き上げられ、そのまま寝室に連れ込まれた。玄関先で抱き上げられたから…まだ靴も履いたまま。


「あの、靴」


「その辺に落としとけ」


 そう言いながら私を降ろす気配は全く感じなかった。

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