幸せそうな顔をみせて【完】
「それならよかった。あ、悪いと思ったけど、あんまりにも汗を掻いていたから着替えさせた。濡れたままだとよくなるものもよくならないから」


「うん。分かってる。ありがとう」


 私がそういうと、副島新はホッとしたような顔を見せる。もしかしたら私は怒るのではないかと思っていたみたいだった。いつもは俺様発言を連発しているのに、こういうところがあるとは思いもしなかった。『着替えさせてやったから』くらいは言いそうなのに、どうも調子が狂う。


「ねえ、座っているのきついでしょ。ベッドに寝たら?」


 副島新はベッドの横にある革張りの椅子に座っている。昨日はこの部屋になかったものだから、どこかから持ってきたものだろうけど、重厚な作りの椅子は座り心地はよさそうだけど、寝るのには向いてない。


「それって誘っているの?」


「ううん。違う。でも、座っているときつくないかと思っただけ」


 私の言葉に副島新はニッコリと笑い、寝ている私の頭をまたゆっくりと撫でる。熱のある時でも気持ちいいと思ったけど、熱のない今でも…やっぱり気持ちいい。


「いや。このままでいい。これ以上近づくと鬼畜なことをしてしまいそうだから」

「どういう意味?」


「葵を抱きたくなるってこと。俺も男だし、二日連続で好きな女と一緒にベッドに入って何もしないという自信がない。昨日は酔っていたけど、今日は素面だ。だから、無理。病み上がりの女を抱く趣味はないけど、抱かないという保証が出来ない」

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