ご懐妊は突然に【番外編】
「だからって…そもそも最寄は何駅なのよ?!そもそも東京都内?!」

眠っている間に拉致された気分だ。

「東京都M市で最寄はK駅だよ。徒歩…8分くらい?」

23区内ではなかったらしい。葛城邸からは車で2,30分の距離、と言ったところだろう。

K駅はJRと私鉄が通っているので通勤も便利そうだ。

とは言っても、我がまま坊ちゃんの匠さんが電車通勤するかは甚だ疑わしいところではあるが。

「なんだよ、遥は嬉しくないのかよ」

匠さんは困惑している私のリアクションがお気に召さないのか唇を尖らせる。

「嬉しいよ…嬉しいけど…」

「けど、なに?」

顔を覗きこまれて、私は何も言えずに後ろへ下がる。

「何の相談もなしに家をポンっと買われちゃったら流石にビックリしたというか…」

匠さんに迫られて私はジリジリと後退していく。

「遥を驚かせたかったんだ」

匠さんは悪びれることなく言ってのける。

「遥に喜んで貰いたくて買ったんだけど、嫌だった?」

また一歩匠さんに迫られて、私は後ずさりする…が既に、壁際に追い詰められてそれ以上逃げる事は出来なかった。

私は顔をブンブンと横に振る。

「幸せ過ぎて怖いくらい…」

私の台詞に気をよくしたのか、まってました、と言わんばかりに匠さんは満面の笑みを浮かべた。

「じゃあさ、遥お礼にキスしてよ」

…出た。匠さんの得意技、プレゼント後のおねだり。

しかも、今回はアクセサリーや服なんてもんじゃない。桁違いの買い物だ。

「い、いいの…?キスだけで」

私は恐る恐る匠さんの顔を見上げる。

「勿論、キス以上のこともしてもらう。結婚したんだから」

この家に見合うお礼って…どんだけのことをさせられるんだろう…。

私はゴクリと生唾を飲み込んで覚悟を決める。
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