嫌いになりたい
「もう10時半よ?」


サクが勝手に決めたとはいえ、約束の時間から1時間半も過ぎている


「だけど来てくれた」


「………」


「俺は…ラビちゃんが来なくても、朝までここで待ってたよ」


フッと笑い、あたしの唇を摘まんだ


「触らないでっ!」


無意識に唇を尖らせていたことに気付き、慌ててその手を振り払う


「来てくれてありがとう」


そんなことをまるで気に留めず、サクはあたしの腰に手を回しそっと耳元で囁いた


「───っ」


耳に触れた冷たい唇と、優しい吐息、あの時と同じ甘い匂いに、体がびくんと震える


「あ、ひょっとして耳弱い?」


「サクが冷たいからっ!」


クスクスと笑いながら耳の縁に口付ける彼から顔を背けた


「俺の名前、憶えててくれたんだ?」


「どうせ源氏名でしょ」


「んー、そう。でもちゃんと覚えててくれて、嬉しいよ」


社交辞令だって分かっているのに、胸がキュッと締め付けられる
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