嫌いになりたい
そうだ


ここは飲み屋街

金曜ということもあって、たくさんの人が行き交っている


「ちょっ…、やっ!」


慌てて腕を振り払おうとするとギュッと抱き締められ、サクの胸の中に閉じ込められた


「嘘。誰も俺達のことなんて見てないよ」


楽しそうにクスクス笑う

頭を抱え込まれているので、サクの言うことが本当かどうか分からない


「ラビちゃんって、ホント可愛いね。襲いたくなっちゃう」


「誰にでもそんなこと言ってるんでしょ。だからホストしてる人って、嫌いなのよ」


「そんなことないよ。ずっとこのまま、俺の中に閉じ込めときたくなる」


道の端

建物の壁に凭れたあたし達は、一体何人の人に認識されているんだろう


「ラビちゃん、温かい」


「サクが冷た過ぎるんだよ」


「………じゃあ、ラビちゃんが温めてくれる?」


周りは賑やかなはずなのに、あたしにはサクの声だけが響く

その優しい瞳に吸い込まれ、甘い匂いに酔い、あたしはただ黙って頷いていた
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