オフィスの華には毒がある
そんな淡い期待を持って、そっと振り返ると……

斉木くんが、涙を拭っているところで。


ごしごし、ごしごし。
拭うというか、必死に目を擦っていて。


一気に申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、また走り出す。


いっそのこと、全部嘘だったらいいのに。
スマホのグループラインも、全部仕込みで。
この間の、続き。
落とせない冴えない歳上のオンナをどうにかして落としたら、斉木くんの勝ちっていう、ゲームで。
わたしのことなんて、なーんとも思っていなくて。


わたし、本当になんなんだろう。

どうして、斉木くんごめんねと思いながらも、さっきの主任の顔が頭から離れないんだろう。


走って、走って、会いたいと思ってる。

わたし、主任に会いたい。

さっき、あの瞬間に違和感の原因が分かった気がしたんだ。


隣に居て欲しいのは、斉木くんじゃないんだ。
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