オフィスの華には毒がある
「……それじゃあ、また明日」


駅に着いたんだし。
明日も仕事だし。
第一主任がどこに住んでいるのかも知らないし。

だから、ここでそう言われるのは全くもって当然で。


なのに。
スッと離れかけた手を反射的に強く握ってしまった。


「……」

ぐい、と引き寄せられるように主任の動きが止まる。


「……こんな耄碌ジジイにお付き合い頂いてすまんの」


「いえいえどういたしまして」


再び始まる、たいして面白くもないお爺さん&介護職員のコント。


「もうすぐ桜が咲きますかの」


「お爺さん、もうすぐ夏ですよ」


手を繋いだままで、何をやっているんだわたし達は。


「では、桜が咲いたらお花見に行きましょう」


主任は、『お爺さん』役の台詞で言っているだけなのに、まるでお花見に誘われたような気がして胸がドキドキする。
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