オフィスの華には毒がある
ちらり、とパソコンの脇に置いたココアの缶を見る。


もしも、わたしが、もっと若くてかわいらしかったら(ただ若く戻ってもダメね。かわいくないと)……斉木くんのちょっかいを、真に受けてしまうかもしれない。

そして、その気になって誘いにのってデートをしたり、ほかの子との噂にヤキモキしたり、していたかもしれない。


そこまで考えて、何だか胸が苦しくなる。

……無理だわぁ。



大好きなカワイイ物を排除したデスクの上で、唯一キラキラと輝くようなココアの缶。

だけど、これを後生大事に持ち歩くようなババアはストーカーでしかない、と思い、思いっきりプルタブを引っ張り上げる。


プシッと気持ちのよい音が響き、わたしは呪いが解けたような気持ちでココアに口をつけた。

甘いはずなのに、なんだか味があまりしなくて、だけどわたしはなにかに勝ったような気分になっていた。
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