elevator_girl
..それに。
俺は、夏名に逃げた訳じゃない。
親友、松之と恋を争うのが嫌だった訳ではない。
ミュージシャンの血がそうさせた、と言うか....。
深町にとって、女性、と言う存在が
血道を上げて追い回す程のものでもなかったから
と言うと高飛車に聞こえるだろうが、ミュージシャンには多い。
要は単にプログラムの問題なのだ。
何に幸せを感じるかは、ひとそれぞれ、だから....。
一途に思ってくれている夏名が愛おしく思えただけ、だ。
ただ、そう言ってしまうと夏名のプライドを傷つけるから
自ら愛している、と言ったのだ。
嘘だ、偽りだ、と言われるかもしれないが
言葉等というものはおおよそ不完全なものだから
心を通い合わせる為にはある種、仕方ない。
男と女は違う思考、違う生物なのだ....。
「じゃ、行きましょうか?」
一瞬の内にこれだけの回想をしていた深町は
秒の沈黙のあと、諒子をスーパー・7のパセンジャ・シートに
エスコートした。
ひどく低く、地面に座っているかのようなシートに座るのは難しい。
深町は、自分が手本を見せた。
ロール・バーに懸垂するようにして、腰を浮かせたまま
コクピットに足を滑り込ませる。
そのまま、シートに腰を下ろせばいいのだ。
細長く、左右の余裕のないシートは、まるで戦闘機か
レーシング・カーそのものだ。