印堂 丈一郎の不可解な生活
「滅びの五人?知らんな」

目の前の棺の主は、唇さえ焼け爛れて歯茎が剥き出しになった口角をつり上げて見せた。

「ベナル・ヨアキム・シュターセン。不死の王(デミリッチ)。幾度となく人の世を脅かし、時代時代の勇者、英雄、化け物退治の専門家達によって何度も活動不可能なまでに肉体を破壊され、拘束を繰り返されて尚、死なないもの。それが俺だ」

それは紛れもなく『滅びの五人』に数えられる、人類に災厄をもたらす者。

彼はゾンビやグール、リヴィングデッド寄りの魔物であり、彼に傷つけられた者もまたアンデッドとなる。

棺の中で眠りにつきながら、彼は近付いて来る研究者や調査員の体液を啜ってエネルギーを吸収しつつ、不死者を生み出していた。

私達の街にグールが現れていた原因は、全てこの化け物にある。

でも何で?

ベナルは『あの時』消滅させられた筈なのに。

私と『あの人』の目の前で、確かに…。

歴史はまた繰り返されるっていうの?

「えっ…」

そんな考えが頭の中をよぎって、私はハッとする。

何、今の記憶?

私、このベナルって化け物を見るのは初めてなのに。

まるで『前から知っていた』みたいな記憶…。

何、今のは…?

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