立花課長は今日も不機嫌

「立花さん、」


私の呼び止めにピタリと足を止める。


「あの、夕べはご馳走様でした。言いそびれてしまってすみません」


私の言葉に背を向けたまま右手をヒラリと翻して、立花さんが再び足を進める。

――とそこで、ちょうど来店した岩瀬さんと出くわした。


「う、うわっ」


立花さんを見て、岩瀬さんが小さく声を上げて驚く。

その反応で岩瀬さんに気付いたらしい立花さんは、しばらく岩瀬さんをジッと見据えた後、今度こそ店を出て行ったのだった。


立花さんが出て行った後も、驚いた体勢のままドアを見つめて固まっている岩瀬さんに「いらっしゃいませ」と声を掛けると


「あっ、ど、どうも、こんばんは。杏奈さん……」


やっと動き出して、汗を掻いているようには見えない額をハンカチで必死に拭った。

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