立花課長は今日も不機嫌

視線を感じて顔を向けると、サッと目を背けられたことが何度かある。



「いらっしゃいませ、杏奈です」


頭を下げて腰を下ろすと、そのお客は「ど、ども」と口ごもって答えた。


決して暑くはないフロア内。
それでも、額に浮き出た汗を必死にハンカチで拭う。


ちょっと緊張でもしてるのかな?
でも、それは私も同じ。
何せ、初指名なのだから。


初めて同士の空気を和らげるべく


「ご指名いただいたの初めてなので、とっても嬉しいです」


笑顔いっぱいに感謝の気持ちを伝える。


「そ、そうなんですか。それは僕も、う、嬉しいです」


つっかえつっかえながらも、そのお客は口元に笑みを浮かべて答えてくれた。


「お飲み物は何がよろしいですか?」

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