春色最中のコンチェルト
「父さん…」

指先が冷たい。

寒いのは気温のせいだけじゃない。

「それで?」


「それで…って…」


「わざわざ東京まで行って、何か得たもんはあったんか」

「え、あ…」


得たもの。得たもの。

楽しい学校生活?

友達?

知識?


どれも、東京で得たとは言い難い。

だって、京都でだって得られるもの。

キラキラ輝いて見えた東京。

ネオンサインみたいに光る東京だけの思い出は…あった────? 



「答えられへんのか、お前は」

「ち、違…」


バシィッという大きな音と、頬に走った鋭い痛み。


咄嗟に涙が出そうになったが、急いでこらえた。


父さんにだけは涙なんて見られたくなかった。


父さんにだけは。


必死でこらえて、前を向けるようになった時には父さんの背中がのれんの奥に消えていく所だった。
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