秘密の記憶は恋の契約
(・・・よし)


鏡の前に立ち、滲んだアイラインをハンカチの淵で整える。

目が赤いのは仕方ない。

無駄な抵抗とわかっていても、少しでも隠れるようにと前髪をぎゅっと引っ張った。

「ふー・・・」

もう一度深呼吸をしてトイレの外へ出て行くと、ちょうどフロアから出てきた綾部くんと、バッチリ目と目が合ってしまった。


(う、うわ・・・!)


「・・・お、おつかれさま・・・っ」

私はうつむいて視線をそらし、彼の横を足早に通りすぎようとした。

けれど。

「美咲」

「!」

綾部くんに、ぐっと腕をつかまれた。

久しぶりに呼ばれた下の名前と、肌に触れた彼の体温で、頬が一気に熱くなる。

「あ・・・な、なに・・・?」

「・・・・・・あのさ」

そう、彼が口を開きかけたとき。

「おーい、綾部ー!」

フロアの入り口から、課長がひょこっと顔を出す。

彼はすぐさま、つかんでいた私の腕をぱっと離した。
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