黄昏と嘘



・・・突然、音が止んだ。


え?
 
どうしたのだろうか、そう思ってチサトはそっと部屋の中を覗く。

「そこにいるんだろう?」

部屋の中から聞こえたその声にチサトはギクッとする。
ここにいることがバレてしまった、怒られる前にそっと黙って逃げようとするとまた声が聞こえた。

「構わない、入りなさい」

そしてチサトはその言葉に思わずドアノブに手をかけたが、なぜか少しためらってしまう。
ドアノブに片手をかけたまま、もう一方の手で胸を追わせる。
そして誘われるようにゆっくりと部屋のドアを開き、初めてピアノの部屋に入っていった。

「・・・すみません・・・えっと・・・」

「聴くのならそこに座りなさい」

アキラは隣にあった椅子を指差してそう言った。
そんな彼の言葉にチサトは驚いて聞き返す。

「・・・聴いててもいいんですか?」

「さっきまでそこで聴いていたんだろう?」

アキラはドアの方を指さしたあと、ピアノに立てかけていた譜面をめくる。
そしてチサトはそんな彼の横顔を見ながら椅子に座る。

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