黄昏と嘘

「ど……どうして先に帰るんですかっ!」

どうしてと聞かれてもアキラは用事も済んで早く帰りたかっただけだ。
本を選んで欲しいというから選んでそれで用事は終わったはずだ。
アキラはそう思うのだがチサトにしてみれば一緒に本屋に行くという行為をしたかったのだから当然、一緒に帰りたいとも思っていた。

「どうして放って行くんですか!
一緒に来たなら一緒に帰って下さい!」

チサトがここまで必死になってアキラに言うのは一緒に帰りたいから、という思いもあったのだが、アキラがさっさと彼女を放って帰ろうとしていることで彼はただ用事を済ませればそれで終わりと思われていたことに気付く。
だからとにかく彼を引き留めたい、そんな思いが彼女にはあった。

必死になって一緒に出かけることを頼み込んだのだから、このまま帰るなんてなんだかそれももったいないと思ったのだ。 


「道もわかるし、ひとりで帰れるだろう?」

チサトが言うのはそういう意味ではない。
どうしてわかってくれないのか。
いや、わかってくれることなんてあり得ないだろう。

「あの……!先生」

「なんだ?」

そう聞き返されたものの、何を言ってアキラを引き止めたらいいのかチサトは言葉に迷う。
そして何も言わないチサトにアキラはまた背を向けて歩き始める。

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