黄昏と嘘
「さっきの店とはまた全然違ってしまったけれど・・・」
アキラはそう言ったけれどチサトはアキラと一緒ならどんなお店だって美味しいと思えるし、誘ってもらえるのならどこのどんな店であっても行きたいと思う。
「大丈夫です!
それより・・・あの、先生・・・さっきは私、変なこと言って・・・」
箸を割りながらアキラに謝ろうとチサトが声をかける。
アキラは箸を取る手を止める。
「もう・・・いい。
僕の方こそ大人げなかった」
そして隣に座るアキラの横顔をそっと見る。
湯気の向こう、もうさっきあの店で見たときの厳しい表情はどこにもなかった。
チサトは視線を自分の膝に落として安堵しながら
「いいです・・・もういいです・・・」
小さな声で繰り返す。
香水のことも、先生のどんなことも、もう聞かないでいよう。
そんなことを思いながらチサトは屋台の隙間から見える雨でにじむ街の灯りをぼんやりと眺める。
・・・少しして、遠くを見つめながらアキラが言った。
「ただ家に帰ったら、キミがまだ帰ってなくて・・・。
もしこのまま、帰ってこなかったら・・・。
そう思ったら結構、僕はキミとの暮らしが必ずしも悪いものでもない・・・、そう感じているのかもしれない。
だから・・・」
そこまで言って彼は言葉を止める。
そうなんだ・・・。
先生は・・・私が邪魔だとは思っていなかったんだ。
よかった。
ホントによかった・・・。
「先生・・・?」
チサトはその続きの言葉が聞きたくてアキラに声をかける。