黄昏と嘘
「アキラも幸せに」
チサトはその言葉を聞いてハッとした。
違う、このひと、勘違いしている。
「あ、違います・・・、私は・・・」
チサトが焦って身を乗り出してそう言いかけたとき、それまで黙っていたアキラがチサトの言葉を制して言った。
「ああ。だからどうか幸せに・・・」
「うん、じゃね」
そのアキラの言葉に彼女は安心したように微笑んで彼に背を向ける。
アキラがどういうつもりでその言葉を発したのかチサトには理解できなかったが、それは違う、間違っていることだけははっきりとしていた。
チサトは何かを言わなければ、と思うものの、言葉が出てこない。
彼女がリビングを出て行く後ろ姿に、慌ててチサトは彼女を追いかけ部屋を出た。
「ま・・・待ってください!」
追いかけて引き止めて何を言うか、言葉なんか相変わらず浮かばなかったが、それでも勘違いしている彼女の誤解をどうにかして解かなければ、そう思って必死だった。
「なに・・・かしら?」
玄関のところでチサトに気づいた彼女が振り向き聞く。
近くで見ると彼女は小柄で可愛い女性だった。
きっと彼女はモモカと同年代になるのだろうけれど、モモカは大人っぽい美人タイプであり、彼女はどちらかと言えば可愛いタイプだと思わせた。
思いだした・・・。