黄昏と嘘
いつだったか、女性とぶつかって定期を拾ってもらった女性。
アキラと夕食の約束をした日に初めて香水をつけたのに、なぜかどこかで香ったことがあると思ったこと。
それは・・・。
「あ・・・。その・・・」
チサトの頭の中にいろんなことがフラッシュバックしてしまい言葉が出てこない。
「・・・私、以前、貴女に定期を拾ってもらったことが・・・あって、それで・・・」
彼女は私のことを覚えているのだろうか。
「・・・定期を?」
そう言って彼女は思い出そうと少し考えるそぶりを見せた。
「ごめんなさい、その事は・・・、覚えていないわ」
彼女の日々の中で私はただの通行人。
でも私の日々の中では。
あんな一瞬の出来事のはずなのに私の中に大きく影を落としたのはきっとどこかで無意識のうちに先生の「大切な」「彼女」であることを直感的に感じていたのかも知れない。
「・・・でも・・・先生も幸せにって、それは間違ってます」
唐突に出たその言葉に彼女はくすりと小さく笑みを浮かべ玄関の靴を指さし静かに言った。
「玄関に靴があるでしょう?
これは女性もの、だから、そうでしょう?」
チサトは泣きそうになりながら、必死に否定するように首を左右に振る。
「時々・・・街で彼を見かけてたのよ。
私と一緒にいたころよりももっと厳しい顔して。
自惚れかもしれないけれどもしかしたら私のせいかもしれない、その度に私は罪悪感を抱いて・・・。
でも偶然、この間、食器を選んでいるあの人と女性を見かけたことがあってね、そのときの彼がとても明るくて・・・。
私、すごく嬉しかった」