黄昏と嘘
あの時のことだ。
チサトの脳裏にアキラにどうしても、と頼み込み一緒に本屋に行ったことを思いだした。
「あの時の女性は・・・、きっと貴女だったのね。
きっと貴女となら・・・」
そう言って彼女は少し頭を下げて会釈をし、再びチサトに背を向けようとした。
「あのっ!ちょっと・・・違うんですっ!待ってください!」
「・・・え?」
チサトの呼びかけに彼女は顔だけこちらを向けてチサトを見る。
彼女はさっき再婚すると言った。
でもアキラはまだ彼女のことに想いを寄せているのかもしれないのだ。
そのうえ彼女もアキラと自分のことを誤解している。
だからその誤解を解いてもう一度、ふたりにゆっくり話をする時間を持てぱ、もしかしたら。
そう思ってここまで追いかけてきたのに。
きたはずなのに。
でも、もし、ふたりがゆっくりと話をする時間ができて、それでふたりが、以前のふたりに戻ってしまったら。
そう思うとチサトは胸の奥が締め付けられるくらいの痛みを感じた。
ふたりが再び一緒にいることになってしまうと、もう二度とアキラと一緒に笑うことができなくなってしまうだろう。
いや、できなくなってしまうのだ。
違う、しっかりしろ、余計なことなど考えないように、戒めるように手のひらをぐっと握りしめたはずだった。
でもチサトの口から出た言葉はもう一度ふたりで話をしてほしい、という言葉ではなかった。
「あの・・・、貴女は先生のことを解放させるために・・・」
チサトはモモカが言っていた他の男性と一緒にいたのはアキラを自分から解放したいと思ったからかもしれない、という言葉を思い出したのだ。