黄昏と嘘
「それは、あの……」
いろんな思いがあったけれど上手く言葉が出てこない。
たくさんの言い訳は返って彼を激怒させるような気がしたから何も言わずただ謝罪の言葉だけを伝えた。
「すみません……」
アキラはそんな態度のチサトに腕を組み直してタメイキをつき、そして右手で髪をかきあげながら言った。
キレイな黒髪がサラリ、と揺れる。
あまりいい状況ではないというのにチサトの心はその彼の姿に心奪われ、ときめいてしまう。
「キミみたいに謝ればなんでも済むと思っている人間は最近、多いから困る」
怒られてもやっぱり私はこの人のことが好きなんだ、そう思うと今度は哀しい感情が少しずつ心の中に広がっていく。
でも彼女の仕草も言葉も彼を不快にさせるもの以外、なにもなかった。
ただ自分が悪いから謝っただけであり、それでなんでも済むなどとそこまでは考えてはいなかったけれどこんなことにさえもアキラにいいようには思ってもらえない、どうすればいいのだろうか。
「すみま……」
チサトはまたそこまで言いかけて慌てて手で口を押さえた。
しまった!また謝るところだった!
「もう、いい」
アキラはそれだけ言い残し再びチサトに背を向けた。
今度はもう何を言って引き止めるとか、そういう状態ではなかった。
チサトの中でまた嫌われた、そんな思いが生まれ、そして今目の前からアキラの背中が小さくなっていくように見えない距離もまたどんどん開いていってるように感じた。
あんな出来事だったけれどせっかく近づけたと思ったのに、想いが大きくなっていったのはチサトのほうだけでアキラは彼女のことなどさほど気にもかけていることもなく、ただ不快感を抱かせているだけだと改めて痛感した。
そもそもアキラはあんなところ、誰にも見られたくなかったはずだ。
だがそこにチサトがやってきた。
それは嫌われるには十分過ぎる理由かもしれない。