黄昏と嘘
これってめっちゃヤバイ状況じゃないですか……ね……。
「えっと……」
なんとか掴まれた腕を解いて、彼から離れようとなにか気の利いた言葉を頭の中で探しているうちにチサトからわざとらしい笑顔が消えてゆく。
彼の掴んでいる腕の力の強さで曖昧なチサトの態度に彼がだんだんと苛ついてきているようにチサトには充分に理解した。
チサトの中に恐怖感が生まれる。
「来るって言ったんだからさあ、今更、止めるとか言うなよ、来いよ」
そう言う彼の表情は笑顔だったけれど、チサトにはもうそれは怒っているとしか思えなかった。
なんとか力づくで逃げるにも相手は男だから勝てるわけもない。
これ以上、マズい状況にならないためにも穏便になんて言ってられない。
それに掴まれた腕が暑さのせいかねっとりまとわりつくようで気持ち悪い。
早く、腕を離して欲しい。
「ごめんなさい、やっぱりアタシ無理。帰ります!」
やっとの思いでチサトはさっきよりも大きな声ではっきりと言った。
その声に一瞬、ひるんだように男は力を緩めた瞬間、チサトは掴まれた腕を大きく振って離そうとした。
「何言ってんだよ?俺をその気にさせといて何、今更無理とか言ってんだよ!」
そう言ったかと思うと再びチサトの腕をさっきよりも力を入れてぐっと掴んだ。
ダメだ!ヤバイ!
本気で怒らせてしまったかもしれない。
このままだと逃げないとこのまま帰れなくなってしまうかもしれない。
チサトは怖くなり、思わず、大声で叫ぶ。
「は……離してよっ!だ……誰か……!助け……」