黄昏と嘘

どうやって入るんだろう?

そんなことを思った瞬間、彼女を感知し、扉が鈍い音をたてて開く。

「あ、開いた・・・」

外がかなり暑く余計に雑踏が騒がしく感じたせいか、吸い込まれるように中に入るとエントランスはしんと静まり返っており、空調もまた心地よくて、まるで別世界のようだった。

そんな中、思わずチサトはふう、と息をつく。


今日から私は本当に先生のマンションで暮らすんだ。

思った途端に今までにないような緊張感に襲われた。
考えれば今年の春、チサトが彼の授業を履修し、そして彼に惹かれ、それからは、何をどう考えてもそれ以上の変化も進展もないと思っていた。

ただ、とるにたらない存在。
きっと先生は私のことなどなんの感情も抱いてない。
だから授業を受けるだけ、先生を見ているだけ、それだけでよかった。

けれど、こうして今、彼女はアキラのマンションにいる。

この緊張はなんだろう。
もしかして私、浮かれている?

心の中にモヤがかかったような、そんな思いでいたはずなのにどこかで一緒に暮らすことに対して浮かれている自分がいるのかもしれない。

本当の先生はやさしい人だから。

他の生徒でそんなことを言う者はいない。
校内でもきっとチサトだけだろう。

それでもやさしい人だから、
やさしいはずだから、
その言葉を頼りにここに来たということには違いない。


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