黄昏と嘘

「えっと997号室って言ってたっけ…」

浮かれるようなことなんて考えてはいけない、しっかりしなければ、そんな気持ちを現実に戻すため、そして自分に言い聞かせるようにつぶやく。

チサトはそっとエントランスの隅にあるインターホンでアキラの部屋番号を呼び出す。
きれいなメロディの呼び出し音が2、3度繰り返し、直にしんと再びエントランスは静まり返る。
 

もし私のことなど知らない、そんな約束はしてない、なんて言われたらどうしよう。
でも荷物を送った時も業者からも連絡がなかったからちゃんと先生が受け取ってくれているはずだし。
だから私が来ること、ちゃんとわかっているはず・・・。


そんな不安の中、アキラからの反応を待つそんな少しの時間がとても長く感じる。
エントランスの中は空調が効いているはずなのに手のひらの汗がにじむ。

あまりの静かさに耳鳴りがしそうになり、耳に手を当て首を振ると横に見える大きな窓の外には手入れされた濃い緑が見えた。
小さな庭園のようになっており、少しの風で木々が揺れて日差しがゆらめく。
陰には池があり、ゆらめいた日差しで小さく光る。

本当に違う世界のようだ。


「はい」

やっとアキラの声がインターホン越しに聞こえた。

チサトの胸はどきんと大きく鳴り、慌てて視線をインターホンのほうに戻す。
そこに彼の姿が見えるわけでもないのに、でもそれは久しぶりに聞く彼に声のせいだろう、大きくなった胸の音が今度は痛いくらいに騒ぎ出す。

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